IQは、大人になるとほとんど動かない。でもEQは変えられる。しかも、人生の満足度を左右していたのは実はEQのほうだった。

MS|自由持ちラボ

どうも皆様、MSと申します。

さあ、今回はですね。

「IQとEQ」について、
論文を読みながら調べてみました。

突然ですが、皆さん。

今からでも、幸福度を高めたり、
仕事や人間関係をうまく進めたりする力を
育てられるとしたら、どうでしょうか?

しかも、特別な才能がなくても、
大人になってから鍛えられるとしたら。

そんな都合のいい話があるのかと思い、
調べてみたところ、
なかなか興味深い研究が見つかりました。

まず、約3万人を対象にした研究では、
EQが高い人ほど、幸福度も高い傾向がありました。

さらに、約5万1千人分の研究を
まとめた分析では、
EQは給与やキャリアの満足度とも
関係していたんです。

そして、
132人を対象にした研究では、
15時間のトレーニングで、
感情を扱う能力が向上しました。

EQ向上のメリットは
それだけではありません。

ストレスホルモンの分泌が減り、
心身の健康状態が改善し、
人間関係や夫婦関係まで良くなっていたんです。

しかも、その効果は
1年後にも確認されていました。
これ、面白くないですか?

幸福度、仕事、お金、人間関係、
そしてストレスや健康まで。

人生のいろいろな場面に関係していたのが、
今回の主役の「EQ」です。

EQとは、いわゆる「心の知能指数」。

自分の感情を理解し、うまく扱い、
相手の感情も読み取る力のことです。

IQが「頭のよさ」を表す指標なら、
EQは「感情を扱う力」に関係する指標です。

そして、この2つには、
もう一つ面白い違いがありました。

IQは、大人になると
動かしにくいと言われています。

でもEQに関係する能力は、
大人になってからでも
鍛えられるらしいのです。

もちろん、ここで紹介した研究には、
相関関係を調べたものと、
実際にトレーニングの効果を
調べたものがあります。

とはいえ、EQを高めれば、
必ず給料が上がったり、
幸せになれたりするわけではありません。
それはIQと同じです。

ですが、頭に入れておく
価値は十分にありそうです。

そこで今回は、

・EQが高い人は、
なぜ幸福度が高い傾向にあるのか?

・EQは、仕事や収入とどう関係しているのか?

・15時間のトレーニングで、何をしたのか?

・どうすればEQを鍛えられるのか?

このあたりを、論文をもとに
詳しく調べてみました。

さらに調べていくと、
AQ、SQ、CQ、MQなど、
さまざまな「◯Q」があるんです。

そして、EQの話でよく登場する
あの有名な実験にも、
意外な事実が見つかりました。

この記事を読み終えるころには、
EQとは何なのかだけでなく、
「自分の人生に、どう役立てられるのか」

そのヒントも見つかると思います。

それでは、

いっきましょーーー!!





1.まず、IQとEQは何が違うのか。


IQ(知能指数)は、
1905年にフランスのビネーという心理学者が、
「学校の勉強についていけない子を
 早く見つける」
ために作った検査が元になっています。

言葉、数、図形、記憶。
「頭の処理能力」を測る数字です。

で、「IQはもう変えられない」は本当なのか、
どうなのかを見ていきましょう。

スコットランドで、
1932年に11歳でIQテストを受けた人たちを、
77歳でもう一度、
同じテストで測った研究があります。
対象人数は101人。

66年たっても、
子どもの頃の順位と老後の順位は、
かなりそろっていました。

「子どもの頃に上位だった人は、
 老後も上位」という意味での安定です。

そしてもう1つの研究がこちら。
60万人以上のデータをまとめた
2018年の分析では、教育を1年多く受けるごとに
IQが1〜5点上がり、
その差は老後まで残っていました。

同じ10代の若者を数年おいて測り直した
2011年のイギリスの研究では、
IQが上がった子も下がった子もいました。
しかもその上がり下がりは、脳の構造の
変化と連動していたのです。

つまり、

・人との順位は、ほとんど入れ替わらない
・でも点数は、教育や10代の経験で動く
・ただし大人になってから、 自分の努力で
上げる方法は、 まだ見つかっていない

これがIQの正確なところです。
この記事の題名の
「大人になるとほとんど動かない」は、
この意味で使っています。

一方、EQ(心の知能)は、ずっと新しい。

1990年、
アメリカの心理学者サロベイとメイヤーが、
論文で「感情の知能」という言葉を使いました。

そして1995年、
ジャーナリストのゴールマンが
『EQ こころの知能指数』という本を出して、
世界中に広まりました。

ちなみに「EQ」という略し方は
この本から広まったもので、
研究の世界では「EI」と呼ばれています。
この記事では分かりやすく「EQ」で通します。

では、EQの中身は何なのか。

サロベイとメイヤーの定義では、
4つの力に分けられます。

・感情に気づく力
 自分と相手の表情、声、体の変化を読む

・感情を使う力
 気分を考えごとや集中に役立てる

・感情を理解する力
 なぜそう感じるのか、次にどう動くかを読む

・感情を整える力
 自分と相手の感情をコントロールする

ざっくり言えば、

IQは「問題を解く力」。
EQは「人と自分をあつかう力」。

ここで、大事なことが一つあります。

EQは、IQと同じように
テストで測れます。

「あなたは感情が読める方ですか?」
と自己申告させるアンケートではありません。

表情の写真を見せて
「この人の気持ちは?」と答えさせる、
正解と不正解がある、成績の出るテストです。

この「測れる」というのが、
EQが他の◯Qと決定的に違う点でした。





2.◯Qはこんなにある。でも、本物は少なかった


EQが有名になったあと、
◯Qが次々と生まれました。

調べた範囲で、
有名なものを並べてみます。

・IQ 知能指数
 ビネー 1905年(検査)
 → 頭の処理能力

・EQ 心の知能
 サロベイ&メイヤー 1990年/ゴールマン 1995年
 → 感情に気づき、整える力

・SQ 社会的知能
 ゴールマン 2006年
 → EQの「人との関係」の部分を独立させたもの。
  別の人が「スピリチュアルな知能」
の意味でも使っていて、ややこしい

・AQ 逆境指数
 ストルツ 1997年
 → 困難からの立ち直り。
今の言葉だと「レジリエンス」

・CQ 文化の知能
 アーリー&アン 2003年
 → 文化の違う人とうまくやる力

・MQ 道徳の知能
 コールズ 1997年
 → 善悪の判断力。子どもの育て方の本

・PQ ポジティブ知能
 シャミン 2012年
 → ビジネス書

・DQ デジタル知能
 2010年代
 → 子どものネットとの付き合い方

どうでしょうか?
聞いたことがあるものも、
あったのではないでしょうか。
ちなみに私はIQしか知りませんでした(笑)

このうち、
研究者が何十年も測り続けて、
論文の数が群を抜いて多いのは、
IQとEQの2つ
です。

CQ(文化的知能)には測るテストがあり、
研究も進んでいますが、
歴史はまだ20年ほどです。

AQ、MQは、
本としては面白いし、
言っていることも悪くないんです。

でも、
「それを測るテストがあって、
 別の研究者が追試して、
 数字が再現された」

という段階には達していませんでした。

だから、この記事では
◯Qの中でEQだけを深掘りします。

「◯Qが多すぎて、
 何を信じればいいか分からない」

という人は、「IQとEQ。あとは本の名前」
と覚えておけば十分だと思います。

ついでに一つ。

ネットでよく見る
「成功の80%はEQで決まる」
という数字。

これ、出どころのはっきりした研究が
見つかりませんでした。

EQの研究者自身が、
この手の言いすぎを批判しています。

本物のEQの話をするために、
まずは盛った話から引き算しておきます。



3.EQが高い人ほど、幸福度が高かった。3万人の分析


ここからが本題です。

まず、リード文に書いた
「約3万人」の研究から。

2021年に発表された、
中国の研究チームによるメタ分析です。

メタ分析というのは、
たくさんの研究を集めて、
まとめて計算し直したものです。

集めたのは、62の研究。
合計で29,922人。

調べたのは、EQの高さと、
「主観的幸福度」の関係です。

主観的幸福度というのは、

・自分の人生に満足しているか
・良い気分が多いか
・嫌な気分が少ないか
を、本人に聞いたものです。

結果は、EQが高い人ほど、
幸福度が高い傾向にありました。

関係の強さは、相関係数で0.32。
0なら関係なし、1なら完全に一致です。
統計の目安では「中くらい」に入る数字です。

つまり、
EQが高い人ほど幸福度が高い傾向がありますが、
EQが高ければ必ず幸せ、
というわけではありません。

ただ、「中くらい」と聞いて
がっかりしないでください。

幸福度の研究では、
一つの要因で0.3を超えるものは
そう多くありません。
収入と幸福度でも、0.23です。

幸福度の世界では、
0.32は「大きい方」なのです。

面白かったのは、この関係が
10代より、大人のほうが強かったこと。
10代は0.25、大人は0.33でした。

EQは、
大人になってからのほうが
効いてくる力なのかもしれません。

ちなみに、この分析は
中国の人を対象にしたものです。

「中国だけの話じゃないの?」
と思ったので、別の分析も見ました。

2016年の、
スペインの研究チームによるメタ分析。
25の研究、合計8,520人。
こちらは欧米などさまざまな国の
研究を集めています。

結果は、
こちらも同じく「中くらい」。
数字まで、ほぼぴったり一致していました。

国が違っても、
EQが高い人ほど幸福度が高い。

ここまでは、はっきりしていそうです。

ただし、読み方を書いておきます。

これらは、ある時点での
「EQ」と「幸福度」を
同時に測って比べたものがほとんどです。

「EQが高いから幸せになった」のか、
「幸せだから感情に余裕があって、
 EQテストの点が高かった」のか。

この研究だけでは、
向きは分かりません。

それと、EQの測り方には注意が要ります。
3万人の分析では、測り方の多くが
「自分はこうだと思う」という自己申告でした。
自己申告で測った研究では、0.32前後。

ところが、第1章で書いた
「成績の出るテスト」で測った研究に限ると、
0.08まで下がります。
ほぼ関係なし、と言っていい数字です。

スペインの分析でも、
テスト型に限ると0.22でした。

つまり、
「自分は感情を扱えている」と思っている人は、
幸福度も高いと答えやすい。
でも「本当に感情を読める人」が幸せかは、
まだはっきりしていません。

それでも、
3万人と8,520人で、
同じ向きの答えが出ています。

「EQが高い人ほど幸福度が高い」は、
自己申告のEQについては、
傾向として本当だと言っていいと思います。

では、なぜなのか。

次の章で、
脳の中で起きていたことを見てみます。





4.なぜEQが高いと幸福度が高いのか。脳の中で起きていたこと


EQが高い人は、
脳内では何が起きているのでしょうか。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校
(UCLA)が、2007年に発表した研究です。

対象は、18〜36歳の30人です。

うち女性が18人でした。

脳の画像を撮りながら、
こわい顔、怒った顔などの写真を見てもらいます。

やってもらうことは6種類です。

ただ見る、同じ表情の顔を選ぶ、
その感情を表す言葉を選ぶ、
その人の性別を表す言葉を選ぶ、などです。

ただ見ているだけだと、
脳の奥にある「警報装置」、
扁桃体というところが強く反応します。

ところが、

「怖い」「怒っている」と、
感情の言葉を選んだときだけ、
警報装置の反応が小さくなっていました。

その代わりに、
おでこの右奥(右腹外側前頭前野というところ)が
働き出していました。

そして、この2つは、
シーソーのように逆の動きをしていました。

右腹外側前頭前野が動くと、警報が静まります。

つまり、
「いま自分は怖いと感じている」と言葉にする、
その動作そのものが、
脳の警報を鎮めるスイッチになっていたのです。

これは、なにもEQの実験だけの話ではなく、
私たちが日々同じことをしています。

例えば、夜道で何かが動いたとき、
警報が一番強く鳴るのは、
「正体が分からない間」です。

「猫だ」と分かった瞬間に、ほっとします。

猫そのものは何も変わっていないのに、です。

脳は「分からない状態」を放っておけません。

雲が顔に見えたり、
天井のしみが人に見えたりするのも、
無理やりにでも名前をつけて安心しようとする、
脳のくせです。

この研究が示しているのは、
相手が外の物ではなく、自分の中の感情でも、
同じことが起きているということです。

「なんかモヤモヤする」は、
正体の分からない影です。

警報は鳴り続けます。

「これは怒りだ」と名前がついた瞬間、
猫だと分かったときと同じで、警報が下がります。

第1章で、EQとは「自分の感情に気づいて、
扱う力」だと書きました。

その「気づく」という一歩が、
脳の中では「警報を静める」という動きと、
同じものだったんです。

ただし、名前をつけただけで、
怒りが消えるわけではありません。

嫌なことを言われたという事実は、
名前をつけても何も変わりません。

変わるのは、心臓がばくばくする、
頭に血が上る、といった体の警報のほうです。

警報が鳴りっぱなしの間、人は考えられません。

言い返すか、黙るか、逃げるか、
その3つしか出てきません。

警報が一段下がると、
「なぜ腹が立ったのか」
「どうしたいのか」を考える余地が生まれます。

名前をつけるのは、解決ではありません。

解決を考えられる状態に戻す、一歩目です。

ここから、第3章で書いた
「EQが高い人ほど幸福度が高い」理由も、
見えてきます。

EQが高い人は、嫌なことがあったとき、
自分の感情に早く名前をつけます。

名前をつけた瞬間に警報が小さくなるので、
嫌な気分が長引きません。

たとえば1日に3回、
小さな嫌なことがあるとします。

1回ごとに30分引きずる人と、
5分で済ませる人では、
1日で75分の差になります。

1年なら、456時間です。

その積み重ねが、
幸福度の差になっているのだと考えられます。

幸福度の研究で出ていた、
EQと「嫌な気分の少なさ」の関係とも、
つじつまが合います。

ただし、30人の小さな研究です。

「人類全部がこう」とは言えません。

でも、「気持ちを言葉にすると落ち着く」
という昔からの知恵に、
初めて脳の裏付けがついた形でした。



5.50歳のときの人間関係が、80歳の健康を予測していた


次は、人との関係の話です。

1938年にハーバード大学が始めた、
人を一生追いかける研究があります。

ハーバードの学生268人と、
ボストンの貧しい地区の青年456人、
合わせて724人です。

80年以上たった今も続いていて、
本人たちの子ども世代まで追いかけています。

では、何が分かったのでしょうか。

研究の今の責任者、
ウォルディンガー教授はこう話しています。

「50歳のときに人間関係に満足していた人が、
80歳でいちばん健康だった
」

50歳時点のコレステロール値より、
人間関係の満足度のほうが、
老後の健康をよく予測していた、という話です。

ここで面白いのは、
友人の「数」ではなく「質」だったことです。

友人が多いかどうかではなく、
「困ったときに頼れる人がいる」と、
感じていたかどうかです。

この研究では、
脳の健康を記憶力の衰え方で見ています。

けんかの多い夫婦でも、
「本当に困ったら頼れる」と思えていれば、
記憶力の衰えが遅かったと、
教授は話しています。

EQの4つの力のうち、
「気づく」と「整える」を相手に向けたものが、
そのまま人間関係の質です。

EQが効くのは記憶力に直接ではなく、
人間関係の質を通してです。

もちろん、これは観察研究です。

「人間関係が良いから健康になった」と、
証明したわけではありません。

健康な人のほうが人付き合いに余裕があった、
という逆の向きも消せません。

でも、724人を80年追いかけて出てきた答えが
「人間関係」だったことは、
重く受け止めていいと思っています。





6.15時間のトレーニングで、何をしたのか。そして何が起きたのか


「じゃあEQを上げたら、体は変わるの?」

これに答えた研究がありました。

ベルギーのルーヴァン・カトリック大学が、
2011年に発表した研究です。

大人132人を、くじ引きで2つに分けます。

片方のグループだけが、
合計15時間のEQの講習を受けました。
その後、4週間メールで振り返りをします。

では、15時間で何をしたのか。

講習は、グループ形式でした。

中身は、研究チームが
「感情の5つの基本的な力」と呼ぶものを、
順番に練習するものです。

・自分と相手の感情に気づく
・その感情を理解する
・感情を適切に表す
・感情を整える
・感情を目的のために使う

第1章で書いたEQの4つの力と、
ほぼ重なります。

講義を聞くだけではなく、
日常で起きた場面を持ち寄って、
ロールプレイや振り返りをする形です。

講習が終わったあとも、4週間、
メールで
「今週はどうだったか」の
振り返りが続きました。

結果はこうでした。

講習を受けた側は、

・EQの点数が上がった
・唾液のコルチゾール
 (ストレスホルモン)が下がった

・体調、気分の自己評価が良くなった
・友人や配偶者との関係が良くなった
 (本人だけでなく、周りの人の評価でも)

受けなかった側は、
どれも変わりませんでした。

そして、この効果は
1年後も残っていました。

くじ引きで分けた比較実験で、
体の数字(ホルモン)まで動いた。

EQの話として、
いちばん「体に起きたこと」を
はっきり示した研究だと思います。
ただし、1つの研究、132人の話です。
「訓練でEQの点が上がる」ほうは、
第9章で24研究のまとめを見ます。



7.仕事はどうなのか。5万人のメタ分析で見てみた


体の話が続いたので、
仕事の話も見ておきます。

「EQが高い人は、仕事でも得をするのか?」

これに答えた、新しい研究があります。

ベルギーとフランスの研究チームが、
2023年に発表したメタ分析です。

メタ分析というのは、
世界中の研究を集めて、
まとめて計算し直したものです。

集めたのは、150の研究。
合計で50,894人。

EQと、仕事にまつわるいろいろな結果との
関係を調べています。

結果はこうでした。

・キャリア満足度
 (自分の仕事人生に満足しているか)
 19の研究・5,566人
 → EQが高い人ほど高い。
  関係の強さは「中くらい」

・給与
 5つの研究・1,446人
 → EQが高い人ほど高い。
  ただし関係の強さは「弱め」

・転職したい気持ち
 50の研究・17,449人
 → EQが高い人ほど低い。
  関係の強さは「弱め」

ほかにも、 変化に対応する力、
進路を自分で決める自信、
仕事への思い入れなどと関係していました

ちなみに、この記事の題名にある
「人生の満足度」は、第3章の「幸福度」、
第5章の「人間関係の質」、
そしてこの章の「キャリア満足度」を
まとめて指しています。

では、IQのほうはどうなのか。

IQと幸福度の関係を調べた
24の研究をまとめた総説(2012年)
があります。

結論は、
個人のIQの高さと、その人の幸福度には、
はっきりした関係が見つからなかった
。

面白いのは、国単位で見ると違うことです。
139か国の比較では、平均IQが高い国ほど、
平均の幸福度も高かった。

つまり、
「みんなが賢い社会」は幸せになりやすい。
でも「自分が人より賢い」ことは、
自分の幸せとはほぼ関係がなかった。

頭の良さは、
社会の役には立つけれど、
本人の満足度を左右していたのは
別のものだった、ということです。

ここで、正直に読み方を書きます。

確かに給与との関係は、ありました。
でも、弱いです。

しかも給与を調べた研究は5つ、
1,446人だけ。
5万人全員で給与を見たわけではありません。

「EQを上げれば年収が上がる」
と読むのは、盛りすぎです。

一方で、
「自分の仕事人生に満足しているか」
との関係は、はっきりしていました。

これは第3章の「幸福度」や、
第5章の「人間関係の質」の話と、
たぶん同じことを言っています。

EQが高い人は、
給料が跳ね上がるというより、
職場の人とうまくやれて、自分の仕事に
納得していて、辞めたくなりにくい。

その積み重ねが、
長い目で見ると「満足」になる。

そう読むのが、
数字に合っていると思います。
もちろんこれも、
ほとんどが観察研究のまとめです。

「満足している人のほうが 感情に余裕があって、
 EQテストの点が高かった」
という逆の向きも、やはり消せません。

でも、IQと幸福度には
はっきりした関係がなく、
EQと満足度には関係があった。

この2つを並べて見たとき、
題名に書いた

「人生の満足度を左右していたのは、
 実はEQのほうだった」

は、数字に沿った言い方だと思っています。




8.じつは、ひっくり返っていた。マシュマロ実験の話


EQや自制心の話になると、
必ず出てくる有名な実験があります。

1960〜70年代、
スタンフォード大学の付属保育園で
行われた実験です。

4歳の子どもに、
マシュマロを1個見せます。

「今食べてもいいけど、
 私が戻るまで我慢できたら
 2個あげるよ」
と言って、部屋を出ます。

何分で戻るかは言いません。
研究者側の上限は、15分でした。

待てた子と、待てなかった子。
大きくなってから追いかけたら、

待てた子のほうが、
学力テストの点が高かった
。

「4歳の我慢が、人生を決める」

この話、本にもテレビにも
何度も登場したみたいです。

ところが2018年、
別のチームがこれをやり直したんです。

元の実験は、
大学の保育園の子ども約650人。
しかも、大きくなってから追跡できたのは
その一部です。

新しい研究は、
全米10か所の918人。親の学歴も、
収入も、さまざまな子どもたちです。

結果はこうでした。

・「待てた時間」と15歳の学力の関係は、
 元の研究の半分の大きさしかなかった

・家庭の環境や、4歳時点の頭の良さを
 考えに入れると、
 関係はさらに3分の2減った

・問題行動など、行動面との関係は
 ほとんど見つからなかった

・そして面白いのは、 学力との関係の
ほとんどが 「20秒待てたかどうか」で
説明できたことです。

20秒です。
15分じゃなくて。笑

つまり、
「我慢できる子が成功する」のではなく、

「家庭が安定していて、
 待てば本当にもらえると
 信じられる子が、待てていた
」

というのが近そうです。

別の研究では、
実験の前に「約束を守る大人」を見た子は
長く待ち、「約束を破る大人」を
見た子はすぐ食べました。
(28人の小さな研究です)

子どもは我慢が弱いのではなく、
状況を読んで、合理的に動いていた。
そう読み解くのが自然かと思います。




9.EQは育つ。しかも、中年まで伸び続ける


IQは大人になると、
ほぼ動かないらしいのですが、
EQは違います。

 訓練で伸びる


16歳以上の大人を対象にした
EQの訓練の研究を、24本、
合計1,986人分まとめた分析が、
2018年に出ています。

結論は、
「訓練前と比べて、ちゃんと伸びた」です。

どれくらいかと言うと、
40人のクラスで20番だった人が、
12番くらいに上がる差です。

しかも、訓練が終わったあとに測り直しても、
効果は残っていました。

効きが良かったのは、第1章の4つの力
(気づく・使う・理解する・整える)を
そのまま練習する形の訓練でした。

この形は、そうでない訓練の、
ほぼ2倍伸びていました。

 年を取るほど、高くなる

スペインで、17歳から76歳までの
12,198人に、成績の出るEQテストを
受けてもらいました。

結果は、山型。

若い人と高齢の人が低くて、
中年がいちばん高い結果でした。

ただし、4つの力のうち
理解する力(感情を理解する力)だけは、
年を取っても下がりませんでした。

つまり、
EQは経験で積み上がるものだ、
ということです。

20代で、
「自分は人の気持ちを読むのが苦手だ」
と思っていても、今後伸びていく可能性は
十分有るということになります。

 まとめると

・IQ
 順位は子どもの頃からほぼ入れ替わらない。
 教育で数点は動くが、
 大人が自分で上げる方法は見つかっていない

・EQ
 15時間の練習で動き、
 1年持ち、中年ごろまで上がっていく。

変えられないものを嘆くより、
変えられるものに注目したいですね。




10.まとめとEQと古典


まずはまとめから。

・◯Qはたくさんあるが、
 測れて研究が群を抜いて多いのは
 IQとEQ

・EQ=感情に気づく・使う・
理解する・整える
、の 4つの力

・EQが高い人ほど、幸福度が高かった。
 中国の3万人でも、各国の8,520人でも、
 自己申告のEQで0.32(2つの分析)。
 テスト型だと弱い

・感情に名前をつけると、
 脳の警報が静まる(30人)

・人間関係の質が、
 コレステロール値より
 80歳の健康をよく予測していた(724人)

・15時間の練習で
 ストレスホルモンが下がり、
 1年持った(132人)

・仕事では、給与よりも
 「キャリアの満足度」と
 はっきり関係していた(50,894人)

・IQは順位がほとんど入れ替わらない。
 でも個人のIQと幸福度には、
 はっきりした関係が見つからなかった
 (24研究)

・EQは練習で動き、中年ごろまで上がる
 (12,198人)

とういう内容でした。

そして最後に、
EQの根っこにある言葉を、
古典から紹介します。

まず『論語』にはこうあります。

己に克ちて礼に復る(克己復礼)

自分の感情に勝ち、
人としての振る舞いに戻る。

「感情に気づき、整え、相手との関係を保つ」。
EQの考え方と深く響き合う、
4文字だと思います。

ここからは、論文ではなく、
私が感じたことです。

「人は、年を取ると丸くなる」と
言います。

あれは、気が弱くなっただけでは
ないと思っています。

相手のことに気づく。
自分を整える。

この2つが、年を重ねて上手くなった
ことも関係している気がします。

9章の12,198人の分析で、
EQが一番高かったのは中年でした。

これは、あくまでその調査における事実です。

それでも「丸くなる」は、
人として成長している一面なのかもしれない、
と私は思います。

『論語』には、孔子自身の言葉で、
こうあります。

六十にして耳順う
(人の言葉が、素直に耳に入る)

七十にして心の欲する所に従えども、
矩を踰えず。

(70歳になったら、やりたいようにやっても、
人の道を踏み外さなくなった。)

60歳で、相手に気づく力が。
70歳で、自分を整える力が。

私には、孔子が自分の内面の成長を、
年齢つきで記録していたように読めます。

そして、仏教です。

仏典『ダンマパダ』には、
EQの4つの力につながる言葉があります。

まず、気づく力。

他人の過失を見るなかれ。
他人のしたこととしなかったことを見るな。
ただ自分のしたこととしなかったことだけを見よ。

目を向ける先は、相手の落ち度ではなく、
自分の行いだ、と。

次に、整える力。

心は、捉え難く、軽々とざわめき、
欲するがままにおもむく。

心というのは、つかまえにくくて、
すぐにざわざわして、行きたいほうへ
勝手に行ってしまう。

『ダンマパダ』は、まずそう言い切っています。

心は勝手に動くものだ。
それが前提です。

そのうえで、こう続きます。

その心をおさめたならば、
安楽をもたらす。

勝手に動く心を、自分でなだめられたとき、
人は楽になる。

「整えろ」と命じるのではなく、
「整えられたら、楽になれるぞ」と
導いているように読めます。

では、いちばん整えにくい感情は何か。

それは、怒りです。

怒りについて、『ダンマパダ』は
こう言っています。

怒らないことによって、
怒りにうち勝て。

怒りを消せ、とは言っていません。

無理だと分かっているからです。

ここで、有名なエピソードを紹介します。
悪口や悪意への対処法です。

お釈迦様に悪口を浴びせた人がいました。

お釈迦様は、こう聞き返します。

「お客が食事を受け取らなかったら、
その食事は誰のものですか?」

悪口を浴びせた人は答えます。

「出した人のものだ」

お釈迦様は言います。

「あなたの悪口も同じです。
私は受け取りません。
だからそれは、あなたのものです。」

受け取らなければ、
怒りは投げた人の手元に残り、
そこで終わります。

受け取れば、相手の悪口や悪意が、
こちらの中で怒りになって残ります。

これは簡単なことではありません。
でも、とても面白い考え方だと思います。

そして、相手との関係に使う力。

怒りを返し続けると、どうなるか。

『ダンマパダ』は、そこも言っています。

怨みに報いるに怨みを以てしたならば、
ついに怨みの息むことがない。
怨みをすててこそ息む。

やられたからやり返す。

それを続けているかぎり、
怨みは終わりません。

先に手放したほうで、終わる。

怒りを返すか、返さないか。

その一瞬の選び方が、
人間関係を壊しもするし、
保ちもする、ということです。

最後に、この言葉です。

自己こそ自分の主である。
他人がどうして自分の主であろうか。
自己をよくととのえたならば、
得がたき主を得る。

簡単に言います。

『自分を整えた人だけが、
自分の主になれる。』

2500年前の言葉です。

相手に気づく。
自分を整える。
そして、人との関係を保つ。

研究がやっと数字にしたことを、
論語も、仏典も、
人の道としてすでに教えているのです。

EQという横文字がついただけで、
中身は別段新しくありません。

人として道を外さず生きて
いくうえで、学ぶべきこと。

それがEQなのだと、
私は思います。

以上となります。

いかがだったでしょうか?

今回の記事が少しでも、誰かの
為になっていれば嬉しく思います。

それでは、また別の記事で!

MS




参考文献

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