哺乳類の心臓約10億回で終了説が気になったので、調べてみた。人間は一生でなんと!「◯◯億回」
どうも皆様、MSと申します。
さあ、今回はですね。
「哺乳類の心臓10億回説」について、
論文を読みながら調べてみました。
きっかけは、
こんな話を聞いたことです。
「ネズミもゾウも、
心臓が10億回くらい打つと
寿命が来る。
ただし、人間は例外」
小さいネズミは、心臓がトトトッと
速く打って、2〜3年で死んでしまう。
大きいゾウは、心臓がドン…ドン…と
ゆっくり打って、70年近く生きる。
ところが、一生のうちに心臓が打つ回数は、
どちらもだいたい同じらしいんです。
これが本当なら、面白すぎる話です。
でも、ちょっと待ってください。
回数が決まっているなら、心拍数をなるべく
上げずに暮らした方が長生きできるって
ことになりますよね?
一方で、運動は長生きにかかせない、
というのも現代では常識です。
運動すれば、心臓はバクバク早鐘を打ちます。
回数を節約したいのに、運動はした方がいい。
この矛盾、興味しか湧きません。笑
そこでこの記事では、いろんな動物の
心拍数と寿命を集めて、自分で計算してみます。
心臓の回数は本当に決まっているのか?
決まっていないのか?
早速、結論から言わせて頂きますと、
半分は本当で、
半分は思っていたのと違いました。
ちゃんとした答えが気になる方は
是非最後まで読んでみてください。
それでは、
いっきましょーーー!!
1.まず「約10億回説」は、どこから来たのか。
この説のもとになっているのは、
1997年に、アメリカの心臓の専門誌に載った
ハーバート・レヴィン博士の論文です。
博士は、
ネズミ、サル、ネコ、イヌ、キリン、
ライオン、ウマ、ゾウ、クジラなど、
十数種類の哺乳類について、
「1分間の心拍数 × 寿命」
を計算しました。
すると、
体の大きさが何十万倍も違うのに、
一生の心拍数は、ほぼ同じ桁に収まりました。
平均は、約7.3億回。
一方、細胞が使うエネルギーから計算した
別の目安は、約10億回。
博士は、
この2つが「驚くほど近い」と書いています。
その後の論文でまとめ直した図でも、
15種類の哺乳類は、
1億回から30億回のあいだに入っています。
つまり、
「きっちり10億回」ではなく、
「桁がそろっている」という話です。
なので、この記事では博士にならって、
「約10億回」と呼んで話を進めます。
2.いろんな動物で、計算してみた
ここからは、
私が集めた数字で計算しています。
計算は、
「1分間の心拍数 × 60分 ×
24時間 × 365日 × 寿命」です。
心拍数も寿命も、
測り方や飼育か野生かで大きく変わるので、
あくまで目安として見てください。
・マウス
1分に約550回 × 約2年
→ 約5.8億回
・ラット
1分に約370回 × 約3年
→ 約5.8億回
・イヌ(中型)
1分に約90回 × 約12年
→ 約5.7億回
・ネコ
1分に約120回 × 約15年
→ 約9.5億回
・ライオン
1分に約70回 × 約12年
→ 約4.4億回
・キリン
1分に約65回 × 約25年
→ 約8.5億回
・バンドウイルカ
1分に約41回 × 約40年
→ 約8.6億回
・アジアゾウ
1分に約30回 × 約60年
→ 約9.5億回
マウスとゾウでは、
心拍数が20倍近く違い、
寿命も20倍以上違います。
それなのに、
一生の回数は、どれも「数億〜10億回」。
ここまでは、
本当に10億回説のとおりでした。
3.では、人間はどうか。
・人間
1分に約70回 × 約80年
→ 約29億回
ほかの哺乳類の、3〜4倍です。
1997年にレヴィン博士が、
15種類の哺乳類を調べた論文でも、
「目立った例外は、人間だけ」と書いています。
もし人間が、ほかの哺乳類と同じ
ルールに従っていたら、
1分に70回という心拍数なら、
寿命はトラやキリンと同じ
「20年くらい」になるそうです。
ではなぜ、人間だけ外れているのか。
これには、はっきりした理由があります。
人類の歴史のほとんどの期間、
平均寿命は30年に届いていませんでした。
アメリカでも、
1900年ごろの平均寿命は50歳未満です。
30年で計算すると、
・昔の人間
1分に約70回 × 約30年
→ 約11億回
単純計算では、昔の人間も
「10億回前後」に近い数字になります。
ただし、「平均寿命30年」というのは、
子どものうちに亡くなる人が
多かったために下がった数字です。
大人になれた人は、もっと長く生きていたので、
あくまで目安の計算だと思ってください。
人間が30億回まで伸ばせたのは、
ここ100〜200年の、
医療・環境・食べ物のおかげと
推測するのが自然だと思います。
体の作りが特別だったというより、
人間は、自分の手で、
寿命の線を引き直してきた
動物なのだと思います。
4.実は、人間以外にも外れる動物がいた
本当に人間だけなのかな?
と思い調べてみました。
レヴィン博士が調べた15種類の中で
枠から外れていたのは人間だけでした。
ところが、
その15種類に入っていない動物を調べると、
人間以外にも、
10億回を大きく超える動物がいました。
・ハダカデバネズミ
1分に約250回 × 31年以上
→ 約40億回
ネズミの仲間なのに、
30年以上生きる動物です。
同じ大きさのネズミの半分くらいの、
とてもゆっくりした心拍で生きています。
さらに、哺乳類ではないですが
鳥も長生きです。
鳥は同じ大きさの哺乳類と比べて、
平均で約2倍長く生きると言われています。
たとえば大型のインコ、コンゴウインコは、
安静時で1分に約127回。
寿命は35〜50年と言われています。
(どちらも一般的な目安の数字です)
・コンゴウインコ
→ 約23億〜33億回
コウモリも、
ネズミと同じくらいの大きさで、
40年生きた記録がある種類がいます。
冬眠などで心拍数が大きく変わるので
単純な計算はできませんが、
10億回説からは外れていそうです。
つまり、
「10億回前後」は
多くの哺乳類に当てはまる傾向で、
人間はその中で一番目立つ例外。
ただし、例外は人間だけではない。
というのが、正確なところだと思います。
5.魚やカメはどうなのか(気になったので)
気になったので、
魚類や爬虫類も少し調べてみました。
・ガラパゴスゾウガメ
古い資料では、1分に約6回 × 約177年
→ 約5.6億回
ただ、最近の動物園での検査
(近い仲間のアルダブラゾウガメ)では、
安静時の心拍数は1分に20回前後でした。
こちらで計算すると、100年で約10億回。
どちらにしても、
100年以上生きるカメも、
一生の回数は、哺乳類とほぼ同じ桁でした。
逆に1分で6〜20回!!?笑
それにしても、
1分に6回や20回で、なぜ生きられるのか。
新たな疑問が出てきたのでそれも
説明すると、カメが変温動物だからです。
人間や犬は、体温を保つために
体の中でずっと燃やし続けています。
カメは、自分ではほとんど熱を作らず、
日光や気温で体を温めます。
そのため、
じっとしているときに使うエネルギーは、
同じくらいの大きさの哺乳類の、約12分の1。
使うエネルギーが少なければ、
必要な酸素も少ない。
酸素を運ぶ心臓も、ゆっくりで足りるんです。
寒いと心拍はさらに遅くなり、
暖かいと速くなります。
心拍数が「気温しだい」なのも、
変温動物ならではです。
一方で、魚は少なめです。
レヴィン博士の論文では、
・ハドック(タラの仲間)
→ 約3,500万回
・ブラウントラウト(マスの仲間)
→ 約6,700万回
哺乳類より、ひと桁少ない回数でした。
そして、
一番面白かったのが
ニシオンデンザメです。
北極の冷たい海にすむサメで、
少なくとも272年は生きることが
2016年の研究で分かっています。
心臓は、10秒に1回ほどしか
打たないと言われています。
・ニシオンデンザメ
1分に約6回 × 272年
→ 約8.6億回
270年以上生きるサメも、
一生の回数は、ほぼ10億回。
ただし、
このサメの心拍数は
正確に測られた数字が少ないので、
話半分で読んでください。
ちなみに、
小さなミジンコは、
わずか30日の寿命で
約1,300万回打つそうです。
6.ここからが本題。心臓の回数が、寿命を決めているのか。
本当に哺乳類の心臓の回数は
大体の上限があって、
上限を過ぎたときが寿命なのか?
この説を広めたレヴィン博士自身が、
論文の中でこう書いています。
心拍数と寿命の関係は、
見かけ上のものだろう。
心拍数は、代謝の速さを表す
目印にすぎない、と。
たとえるなら、車の走行距離計です。
車は、10万キロくらいで
寿命が来ることが多いと言われています。
でも、距離計が車を直接壊している
わけではなく、
走った分だけ、各部品が傷むだけです。
心臓の回数も、この距離計と似ており
体が生きるペースを映しているだけで、
回数そのものが寿命を決めているのではない。
ということになります。
つまり、
体の大きさと、
代謝(体がエネルギーを使う速さ)が、
心拍数と寿命の両方を決めている。
という考え方です。
小さい動物は、
体の表面から熱が逃げやすいので、
体温を保つために、
たくさん燃やす必要があります。
だから心臓が速い。
そして、体の消耗も速い。
レヴィン博士がこうも言っています。
心拍数は体重の4分の1乗に反比例し、
寿命は体重の4分の1乗に比例する。
(私には全く意味がわかりません。笑)
分かりやすく言うと
体が大きいほど、心臓はゆっくり打ちます。
そして、体が大きいほど、長生きします。
ネズミは、速い心臓で、短い一生。
ゾウは、遅い心臓で、長い一生。
速い心臓は、短い一生でたくさん打つ。
遅い心臓は、長い一生で少しずつ打つ。
だから、一生で打つ回数を数えると、
どちらも、だいたい同じになるようです。
では、哺乳類の10億回説は正しいのか。
答えは、半分正解です。
「一生の回数が、だいたいそろう」
これは本当です。
数字として並ぶことは、確かです。
でも、
「回数を使い切ったから死ぬ」
これは違うようです。
さっきの、走行距離計の話です。
回数は、結果であって、
寿命の原因ではありません。
ここが、この記事で
一番言いたいところです。
6-1 ではなぜ10億回という値なのか
揃う理由は、これまでの章で見たとおりです。
ここでは「なぜ10億なのか」を考えます。
車にたとえると、分かりやすくなります。
車の走行距離は、「タンクに入る燃料の量」と
「1キロ走るのに使う燃料の量」で決まります。
タンクが同じで燃費も同じなら、
走れる距離も同じです。
体も、これと同じ計算になります。
まず、タンクの話です。
1908年、ドイツの生理学者ルブナーは、
モルモット、ネコ、イヌ、
ウシ、ウマを調べました。
一生に使う燃料の合計を体重で割ると、
どの動物もだいたい同じでした。
体重1グラムあたり141〜266キロカロリー。
体の大きさは5万倍も違うのに、
差は2倍もありません。
つまり、体1グラムには
「一生に燃やせる燃料の量」という、
タンクのようなものがあると仮定したら、
その大きさは哺乳類ならほぼ同じなのです。
なぜ同じなのでしょうか。
燃料を燃やすと、活性酸素という燃えかすが出て、
細胞を少しずつ傷つけます。
この傷の積み重ねも、老化に関わる要因の
一つと考えられています。
そして、ネズミの体1グラムも、
ゾウの体1グラムも、中身は同じです。
同じ細胞、同じ燃やし方、同じ直し方。
同じ作りなら、耐えられる傷の量も同じ。
だからタンクの大きさも同じになる、
という考え方です。
違うのは、燃やす速さだけらしいのです。
次に、燃費の話です。
前の章でも話しましたが、
レヴィン博士は同じ論文で、
物理学者アズベルの計算を引きながら、
心臓が1回打つあいだに体が使う燃料は、
体の大きさで割って見ると、
どの動物でも同じだと書いています。
つまり、心拍1回あたりの燃費も、
哺乳類ならみなほぼ同じです。
タンクが同じで、燃費も同じ。
それなら、走れる距離、つまり一生の
心拍数もやはりそこは、近くなる。
ということらしいのです。
人間の数字でざっくり計算すると、
その答えが約10億回です。
だから10億回は、心臓に上限があるという
意味ではありません。
タンクの燃料を、心拍という目盛りで
数えたら10億になった、というだけです。
では、なぜタンクがその大きさなのか。
ここから先は、まだ分かっていません。
活性酸素がどれだけ出るか、
傷をどれだけ直せるかは
生き物ごとに少しずつ違い、
なぜその大きさに落ち着くのかを
説明できた人はまだいないそうです。
ここまでで、心拍数が遅い動物ほど長生きだ、
ということは分かりました。
これは人間にも当てはまるのでしょうか?
次の章で見ていきます。
7.人間の中でも、心拍数がゆっくりな人は長生きなのか?
では、人間はどうなのでしょうか。
心拍数がゆっくりな人は、
本当に長生きするのでしょうか。
これについては、たくさんの研究があります。
2016年、世界中で行われた46の研究を
ひとつにまとめて、約125万人分のデータを
分析した報告が出ました。
これだけの人数をまとめると、
個人の体質のばらつきが消えて、
「心拍数と寿命のあいだに
本当に関係があるのか」が
見えてきます。
結果は、こうでした。
まず、安静時の心拍数が1分間に10回多いごとに、
死亡リスクは9%ずつ高くなっていました。
たとえば60回の人と70回の人を比べると9%、
60回と80回なら、おおよそその2倍の差になる、
という具合です。
次に、心拍数でグループ分けを
して比べた結果です。
基準になるのは、一番低いグループ。
安静時の心拍数が
1分間に60回に届かない人たちです。
マラソン選手や、ふだんから体をよく
動かしている人に多い数字で、
ゆっくり打つ心臓の持ち主、と言えます。
このグループと比べると、
・60〜80回の人は、死亡リスクが12%高い
・80回を超える人は、45%高い
60〜80回というのは、
健康診断では「正常」とされている範囲です。
それでも、ゆっくり打つ人たちと比べると、
すでに少し差がついていました。
そして80回を超えると、
差は一気に大きくなります。
さらにこの研究では、集めたデータの中で
一番低かった「45回」を出発点にして、
心拍数が上がるにつれてリスクが
どう変わるかも調べています。
すると、「ある数字を超えたら急に危ない」
という境目はなく、心拍数が高くなるにつれて、
リスクも少しずつ、なだらかに上がっていく。
その関係が、低い人から高い人まで、
ずっと続いていました。
さらに、
デンマークのコペンハーゲンでは、
健康な中年男性約2,800人を、
16年間追跡した研究があります。
安静時の心拍数が
1分間に90回を超える人は、
50回以下の人に比べて、
死亡リスクが約3倍でした。
この「3倍」は、少し補足が要ります。
ここでいう死亡は、心臓病に限らず、
原因を問わない、すべての死亡です。
また、「死ぬ確率が3倍」ではありません。
追跡した16年のあいだに亡くなる率が、
50回以下の人の約3倍だった、という意味です。
そして、この3倍は、
一番低い人たちと一番高い人たちの
両端を比べた数字なので、派手に見えます。
多くの人があてはまる真ん中の範囲では、
前の分析のように、
少しずつ、なだらかに上がる、
と考えてください。
また、ここでひとつ疑問が出てきます。
「心拍数が高い人は、
単に体力がないだけではないのか?」
という疑問です。
この研究でも、
そこもしっかり調べています。
参加者全員に自転車をこいでもらい、
持久力を測定しました。
さらに、
体力の差や
運動習慣の違いを考慮して計算しても、
心拍数が高い人の死亡リスクは、
依然として高いままでした。
つまり、
「体力がないから心拍数が高く、
その結果、寿命が短かった。」
それだけでは説明できなかったのです。
今回の結論としまして、人間も
安静時の心拍数が低い人ほど、
長生きする傾向があるということが
分かりました。
少なくとも、
多くの観察研究では、
その関係がはっきり見えています。
では、薬で心拍数さえ下げてしまえば
いいのではないか?という疑問が
出てきます。
勿論調べました。
次の章で見ていきましょう。
8.薬で心拍数だけ下げたら、どうなったか。
実は、それを確かめた試験があります。
2014年に発表された、SIGNIFY試験です。
この試験が面白いのは、使った薬です。
心拍数を下げる薬はいくつかありますが、
多くは血圧も一緒に下げます。
この試験で使った薬は、
心拍数だけを下げて、
血圧や、心臓の縮む力には影響しません。
つまり、
「心拍数だけを動かしたら、どうなるか」を、
きれいに試せる薬でした。
心臓の病気(狭心症など)がある1万9,102人を、
くじ引きで2つのグループに分けて、
片方にこの薬を使いました。
目標は1分に55〜60回です。
3か月後、心拍数はこうなりました。
・薬なし:平均70.6回
・薬あり:平均60.7回
ちょうど10回、下がっています。
思い出してください。
前の章の分析では、
「10回増えるごとに、死亡リスクが9%高い」
でした。
その10回を、薬で下げたのです。
平均2年4か月、追跡しました。
結果は、なんと。。。
心臓の病気による死亡や心筋梗塞は、
減りませんでした。
・薬なし:6.4%
・薬あり:6.8%
差はありません。
しかも、もともと症状が重い人
(動くと胸が痛むタイプの人)に
限って見ると、薬をのんだ側のほうが、
心臓の病気による死亡や心筋梗塞が、
むしろ少し多くなっていました。
副作用も出ました。
心拍が下がりすぎる人が、
薬なしの2.3%に対して、
薬ありでは18.0%。
もうひとつ、付け加えておきます。
この試験を行ったのは、
その薬を作っている製薬会社です。
製薬会社が示したかったのは、
「心拍数を下げること自体が、心臓を守る」
ということでした。
この薬は脈だけを遅くする薬で、
もともとは
胸の痛みを楽にするために使われていました。
もし「脈を下げれば心筋梗塞や死亡が減る」と
証明できれば、症状を楽にする薬から、
寿命を延ばす薬に格上げされ、
使える人は世界で何千万人にも広がります。
そのために、心拍数が高い狭心症の人だけを
約1万9千人集めて行ったのが、この試験でした。
論文は、こう書いています。
心拍数が高いことは、
心臓の危険を示す「目印」として確立している。
でも、この試験で分かったのは、
その目印を薬で動かしても、
結果は変わらなかった、ということです。
残念ながら心拍数は、
下げれば良くなる「スイッチ」
ではなかったんです。
つまり、この試験で分かったのは
少なくとも、心拍数だけ下げれば
長生きできるわけではない。ということです。
ここからは私の解釈ですが、体温計にたとえると、
熱があるから、体温計の数字が上がる。
数字が上がるから熱が出るのではありません。
だから、体温計を氷で冷やして数字を下げても、
病気は治らない。こんな感じでしょうか。
心拍数も同じです。体の状態がよくないから、
心拍数が上がる。
心拍数は、体の中で起きていることを
映している数字にすぎません。
運動を続けると、
心臓は1回で送れる血の量が増え、
少ない回数で足りるようになります。
だから心拍数が下がります。
同時に、血管がしなやかになり、
自律神経が整い、体の炎症も減っていきます。
長生きにつながっているのは、
この変化のすべてです。
薬がやったのは、体温計を冷やすことでした。
数字だけを動かして、中身は変えていない。
だから、寿命も変わらなかった。
目指すのは、「心拍数を下げること」ではなく、
「心拍数が自然に下がるような
体にすること」です。
【注意】
念の為の補足です。ここまでの話は、
「薬で心拍数を下げても寿命は延びなかった」
という試験の話であって、
「心臓の薬はムダ」という意味ではありません。
心不全の人や、心筋梗塞のあとに使う薬
(β遮断薬など)は、
寿命を延ばすことが分かっています。
ただしそれは、心臓の負担を減らす別の
働きによるもので、「脈を遅くしたから」
だけではありません。
逆に、病気で脈が遅くなっている場合
(不整脈など)は、
低くても良いことではありません。
「低いほど良い」は、健康な人の話です。
いま薬をのんでいる方は、
自己判断でやめず、
必ず主治医に相談してください。
次の章では運動と心拍数を考えていきます。
9.運動は健康に良いとされているが、心拍数は上がる。それは、悪いこと?
10億回説を聞くと、
こう思う人がいるかもしれません。
「運動すると心拍数があがる。
残り回数を早く使ってしまうから、
運動は損では?」という意見。
確かにもっともらしい考え方なんですけど
答えは、逆で『運動は良いこと。』
これが回答です。
理由は3つあります。
理由1.運動中に心拍数が上がるのは、悪いことではない
ここまでの研究で寿命との
関係が調べられていたのは、
「安静時の心拍数」です。
つまり、
「何もしていないときに心拍が速い人」と
「何もしていないときに心拍がゆっくりな人」
を比べた研究です。
車でいえば、見るべきなのは
走っているときの回転数ではなく、
止まっているときのアイドリング回転数です。
車は走れば、エンジンの回転数が上がります。
それは正常な働きです。
心臓も同じです。
運動中に心拍数が上がるのは、
筋肉へより多くの酸素や血液を送るためです。
これは、体が運動に合わせて
きちんと働いている結果です。
一方で、何もしていないのに心拍数が高い場合は、
体力、ストレス、体調など、
さまざまな要因が関係していることがあります。
研究で寿命との関連が見られたのは、
この「運動中に速くなる心拍」ではなく、
「安静にしているときの心拍」だったのです。
理由2.運動する人のほうが、回数は少ない
ここは、10億回説らしく、
計算してみます。
30分の早歩きで、
心拍数が140回になったとします。
安静時が70回の人なら、
その30分で、
ふだんより約2,100回多く打ちます。
ここだけ見れば、確かに損です。
でも、運動を続けると、
安静時の心拍数が下がります。
191の研究をまとめた分析(2018年)では、
どの種類の運動でも、
安静時の心拍数は下がっていました。
特に、持久系の運動とヨガで、
はっきり下がっています。
安静時が70回から60回に下がったとします。
残りの23時間半、
毎分10回ずつ少なく打つ。
1日で、約14,100回の節約です。
運動で増えた2,100回を引いても、
1日あたり、約12,000回少ない。
1年で、約440万回です。
一生の回数で数えるなら、
運動する人のほうが、
心臓はゆっくり打っている。
そういう結論になります。
理由3.大事なのは、下がる速さ
もうひとつ、面白い研究があります。
1999年、アメリカで、
2,428人に運動をしてもらい、
運動をやめた直後の
心拍数の下がり方を調べました。
その後、6年間追跡しています。
運動をやめて1分後に、
心拍数が12回以下しか下がらなかった人は、
すぐに下がった人に比べて、
死亡のリスクが約4倍でした。
年齢や体力、安静時の心拍数などを
そろえて計算しても、
約2倍の差が残っています。
上がることが問題なのではなくて
上がったあと、
すぐに戻せるかどうか。
心臓に、ちゃんとブレーキが効くか。
そこが、体の状態を映していました。
そして、このブレーキは、
運動を続けることで鍛えられます。
つまり、
大切なことは安静時の心拍数です。
運動をすれば結果的に安静時の
心拍数は下がりますし総回数も下がるので
やはり運動はするべきなのです。
これが結論となります。
10.ちなみになぜ運動すると安静時の心拍数がさがるのか?
なぜ運動をすると
安静時の心拍数が下がるのか?
一言で言うと、心臓が
「1回で送れる血の量」を増やすので、
回数で稼ぐ必要がなくなるからです。
仕組みは3つあります。
心臓が1回で送る量が増える(一番大きい理由)
運動を続けると、心臓の筋肉、
特に左心室が強く、少し大きくなり、
1回の収縮で押し出せる血の量
(1回拍出量)が増えます。
体が安静時に必要とする血の量は
変わらないので、1回あたりが増えれば、
回数は減ります。
たとえば1分に5リットル必要なとき、
1回70mlなら約71回、
1回100mlなら50回で
足りることになります。
自律神経のバランスが「休め」側に寄る
心臓のリズムは、アクセル(交感神経)と
ブレーキ(副交感神経)の綱引きで決まります。
持久的な運動を続けると、
安静時にブレーキ側が強く働くようになり、
心臓のペースメーカー(洞結節)が
刻むテンポそのものが遅くなります。
血液の量が増える
トレーニングで
血液の液体部分(血漿 けっしょう)が
増え、心臓に戻ってくる血が多くなります。
戻る血が多いほど心臓はよく膨らんで強く
縮む性質があるので、
これも1回拍出量を押し上げます。
11.安静時心拍数を下げるには、どうすればいい?
ここまでお読みいただいた方には
簡単に分かるかもしれませんが、
答えはこれです。
それは、『持久系の運動です。』
早歩き、ジョギング、自転車、水泳。
息が少し上がる運動を、続けること。
191の研究をまとめた分析(2018年)では、
運動を続けた人の安静時心拍数は、
運動しなかった人と比べて、
1分あたり3〜6回、下がっていました。
割合にすると、4.5〜9%です。
ヨガでも、5回ほど下がっています。
一方、筋トレだけでは、
はっきりした差は出ませんでした。
(女性で、わずかに下がった程度です)
心拍の回数を減らすのは、
筋肉を太くする運動ではなく、
息を切らす運動のほうでした。
どれくらいで下がるのか。
この分析では、平均して3か月、
週3回。それで差が出ています。
何年も続けないと変わらない、
という話ではありません。
そして、面白い傾向が2つありました。
ひとつ。
もともとの心拍数が高い人ほど、
大きく下がる。
もうひとつ。
若い人ほど、大きく下がる。
つまり、
今の数字が高い人ほど、
伸びしろがある、ということです。
8章で見たとおり、
心拍数の「数字」だけを薬で下げても、
寿命は延びません。
運動で心拍数が下がるのは、
体力がついた「結果」です。
そして、体力そのものが、
寿命と関係していると言えます。
33の研究、約10万人をまとめた分析
(2009年)では、持久力が
1段階高いごとに、死亡のリスクが
13%低くなっていました。
だから、狙うのは数字ではありません。
心拍数を下げよう、ではなく、
息が上がる運動を続けましょう。
数字は、きっとあとからついてきます。
12.まとめ 一生の心拍回数はただの「指標」。
ここまでをまとめると、こうなります。
・哺乳類の多くは、
一生の心拍が「10億回前後」に並ぶ
・人間は約30億回。一番目立つ例外
・ただし、昔の人間は、
計算上は10億回前後に近かった
・ハダカデバネズミやコウモリなどの例外もいる
・人間でも、安静時の心拍数が
低い人は長生きの傾向がある
・でも、薬で数字だけ下げても、
長生きにはつながらなかった
では、どうすればいいのか。
私はこう考えています。
大事なのは、
心拍数を「下げること」ではなく、
心拍数が「下がる体」になること。
運動を続けると、
心臓は1回で送り出せる血の量が増えて、
同じ仕事を少ない回数でこなせるようになります。
その結果として、
安静時の心拍数が下がる。
体力がついたことの「結果」として
下がった心拍数には、
ちゃんと意味があります。
人間は、一生の心拍数を
およそ30億回まで伸ばしてきた動物です。
その伸びしろを保つのか、
少しずつ削ってしまうのか、
あるいは、さらに伸ばしていくのか。
その選択は、
毎日の小さな習慣の中にのみあります。
以上となります。
いかがだったでしょうか?
この記事が少しでも役に立ったのであれば
嬉しく思います。
それではまた別の記事で!
MS
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